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過去の選考理由

第10回以降の選考理由は以下の通りです。

第10回(2006年)受賞者

1.学会賞
該当なし
2.優秀論文賞
<受賞者> 鈴木 允
<対象業績> 「明治・大正期の東海三県における市郡別人口動態と都市化:戸口調査人口統計の分析から」,『人文地理』(人文地理学会),第56巻第5号,pp.470-490,2004年10月
<理由> 本論文は、第1回国勢調査(1920年)以前の日本の人口統計とそれを用いた人口学、統計学、地理学その他の諸分野の従来の研究を良くふまえ、明治・大正期の日本の都市化と人口動態の研究におけるメソスケールの地域人口研究の空白部分を埋めようとする意欲的研究として高く評価される。研究方法の面では、府県統計書に掲載されている戸口調査人口のデータに関して、現住人口と本籍人口の変化を市郡単位で整理し、市部における「寄留整理」による不自然な現住人口の変化の影響を、過去に遡及して修正する方法を提案している点にオリジナリティが認められる。また、出生・死亡についても、「本籍地主義」の出生・死亡者数から推計する方法を採用している。上記の方法から得られた現住人口増加率、自然増加率、社会増加数の地域的な分布を示すために地図化を試み、その空間的分布から都市化の進展に関する考察を行っている点も本論文のオリジナルな点である。このようなメソスケールでの都市化の考察は従来ほとんどなく、この時代の人口動態に関する今後の研究に資するところも大といえる。以上の評価に基づいて審議した結果、優秀論文賞に本論文を推薦するに至った。
3.普及奨励賞
<受賞者> 早瀬保子
<対象業績> 『アジアの人口:グローバル化の波の中で(アジアを見る眼105)』(独)日本貿易振興機構アジア経済研究所,2004年3月
<理由> 本書は、世界人口の最も大きな部分を占め、近年経済発展が著しいアジア地域の諸問題に対する人口学を基本とした総合的・包括的取り組みとして高く評価される。アジアの人口問題を全般的に扱った研究書自体近年稀であるが、とりわけ本書は一人の著者により、アジアのすべての国・地域を視野に入れて統計データの収集に努め、人口変動(出生、死亡)、人口構造(性、年齢)から、これらに影響を与える主要な経済社会要因(教育、雇用)、人口の社会変動要因(都市化、国際労働移動)、人口政策まで、人口学の基本的視点を網羅していることに特徴があるといえる。その意味で、本書は専門的でありながら一般読者にも分かりやすく書かれており、アジア入口の入門書であると同時に人口学の入門書(アジア人口を題材に人口学の基本を解説した書)としても価値が高い。以上の評価に基づいて審議した結果、普及奨励賞に本書を推薦するに至った。
4.学会特別賞
該当なし

第11回(2008年)受賞者

1.学会賞
該当なし
2.優秀論文賞
<受賞者> 小林淑恵
<対象業績> 「結婚・就業に関する意識と家族形成-循環モデルによる検証-」『人口学研究』第39号,pp.1-18,2006年11月
<理由> 本論文は、価値意識と実際の行動の相互規定関係を分析する「循環モデル」に依拠し、結婚意欲と結婚行動、就業価値と結婚行動の相互規定関係を扱っている。意識が行動を規定する「選択効果」と、行動が意識を規定する「適応効果」は、横断的データでは分離できない点に従来の研究の困難があった。しかし本論文ではパネル・データを用い、前年度の意識をモデルに含め行動を説明することで、そのような困難を克服した。このように問題提起の斬新さに加え、分析手法がパネル・データの長所をよく活かし、スマートである点が評価できる。分析結果も、教育や都市性が結婚意欲を促進する効果や、働く重要度意識の影響の不在など、興味深いものが多かった。解釈や考察に十分とは言い難い点も見受けられたが、知的刺激に富んだ優れた論文であることに間違いない。以上の評価に基づいて審査した結果、優秀論文賞に本論文を推薦するに至った。
3.普及奨励賞
<受賞者> 和田光平
<対象業績> 『Excelで学ぶ人口統計学』(オーム社、2006年9月)
<理由> 本書はExcelを使って人口統計学の基礎を習得することを試みた意欲的な書物である。人口(統計)学を学習する時の難しさの一つは、具体的なデータを使って、特定の指標や概念に関する数値を自分で簡単に算出できないもどかしさにあるのではないかと思われる。和田氏による本書は、この問題点を克服することを意図した画期的な成果である。また本書は、今後の人口学教育の在り方を考える上でも重要な方向を示している。人口学学習の教材・独習書という点では、本書にはより一層改善できる部分は見られるものの、その充実した内容には、人口学教育に向けた著者の情熱を感じることができる。今回の受賞を契機に著者がより一層完成度の高い人口学普及書を発表されることを期待したい。また、本書の公刊に刺激を受けて、今後も人口学の普及書が公刊されることも希望したい。
4.学会特別賞
<受賞者> 大友 篤
<対象業績> 『続 人口でみる世界ーー人口変動とその要因』(古今書院、2006年11月)
<理由> 本書は、2003年7月に刊行された『人口でみる世界―各国人口の規模と構造―』の続編に相当し、地域人口学ないしは人口地理学の立場から書かれた世界人口に関する優れた解説書である。著者は、豊富な図表を踏まえた人口変動要因に関する適切な解説を中心とし、概念・指標や変動の背景にある社会経済的要因にも周到に言及している。人口学の中では出生や死亡に比較して相対的に関心が低いが、地域人口の変動への寄与という点ではこれらのイベントより多くの場合重要度の高い移動に、かなりの紙幅を割いており、さらにそれを国際移動、国内移動、都市化といったテーマごとに扱っている点に、本書の重要な特色がある。なお、著者は、上述の業績以外にも、長年にわたって多数の学術書・啓蒙書を刊行し、日本の人口学界の発展に大きく貢献してきた。このため、日本人口学会の「学会特別賞」の対象として推薦する。

第12回(2010年)受賞者

1.学会賞
<受賞者> 平井晶子
<対象業績> 『日本の家族とライフコース ―「家」生成の歴史社会学―』(ミネルヴァ書房、2008年1月)
<理由> 本書は東北日本における家の確立とライフコースの変容を研究課題とし、顕著な成果をあげ、日本の歴史人口学と家族史研究に大きな貢献を果たした好著と言える。永続性、単独相続、直系家族世帯といった特徴を伴う日本的な家が、東北日本ではいつどのように出現したのかという大きな問題を扱い、そうした家が19世紀初頭に初めて確立したこと、同時期に結婚適齢期や離婚時期の制限といったライフコースの均質化が進んだこと、余剰人員を他家の相続人として融通する人口の再配分システムが形成されたこと、そして農村内部での経済格差が縮小し出生率が上昇して人口増加局面を迎えたことといった興味深い結果が示される。著者の視野は歴史人口学を越えて家族社会学、家族史、法制史といった広い分野にわたり、日本と欧米の文献を戦前のものまで遡って参照しており、その学識の深さには瞠目せざるを得ない。近畿地方とは全く異なる東北地方独自の家の形成過程を明らかにするとともに、親族関係の変化と近代化・産業化の関係というさらに大きな問題に踏み込んでおり、今後の展開も期待される。以上のように、扱っている問題の大きさと成果の顕著さに鑑みて、本書は学会賞にふさわしいと考え,これを授与する。
2.優秀論文賞
<受賞者> 林玲子
<対象業績> “Long-Term World Population History: A Reconstruction from the Urban Evidence” (『人口学研究』第41号、2007年11月、pp.23-49)
<理由> 本論文は有史以来の世界の長期的な人口趨勢の推計という雄大なテーマに対し、各地域において比較的多くの資料が利用可能な都市人口データを利用して総人口を計算する、という新しい発想で挑戦した意欲的な研究である。本論文の基礎にあるのは、総人口に対する都市人口比率に一定のパターンがあるという「順位規模分布の法則」(rank-size rule)の再確認と利用であり、その着眼点の独創性は高い評価に値する。もちろん、本論文にも改良できる部分があることは否定できない。たとえば、論文の書式上の問題に加え、国によって定義や精度が違う「都市人口」のデータは十分慎重な扱いが必要であること、順位規模分布の法則を大都市だけでなく全地域社会単位にまで拡張してあてはめることの妥当性にさらに検証が必要なこと、などは今後の課題となっている。とは言え、本論文が今後の研究に大きな刺激を与えることは間違いない。
今回の受賞を契機として、著者を含む若手研究者が雄大なテーマに挑戦し、より一層の研究成果を収めることを期待し、本論文に優秀論文賞を授与する。
3.普及奨励賞
<受賞者> 鬼頭宏
<対象業績> 『図説 人口で見る日本史 縄文時代から近未来社会まで』(PHP研究所、2007年7月)
<理由> 本書は、著者の長年の日本人口史に関する研究成果の上に立って、日本の各時代の人口に関する高度な研究成果を具体的な数値、地図、写真等を含めてわかりやすく紹介したものである。少子高齢化など人口問題に対して関心が高まっている今日、人口問題を長期的・歴史的により深く人口を研究する重要性とおもしろさに気づかせてくれるものとなっている。本書は、中学・高校の社会科の副読本として使えるくらい読みやすく、一般の人口に対する関心を高める上での貢献が大きく、人口学教育の在り方を考える上でも重要な方向を示していると思われる。また、著者でなければまとめられなかったと思われる過去の各種データは現代人口の研究者にとっても有用と考えられる。本書には用語、記述などにより一層改善できる部分は見られるものの、歴史人口学の普及に対する著者の情熱が感じられる。
本書の公刊に刺激を受けて、今後もさまざまな接近による人口学の普及書が公刊されることを希望し、本書に普及奨励賞を授与する。
4.学会特別賞
<受賞者> 河野稠果
<対象業績> 『人口学への招待-少子・高齢化はどこまで解明されたか』(中央公論新社2007年8月) その他
<理由> 本書は長年にわたり人口学の第一線で活躍して来た著者の絶え間ない研鑽の成果であり、力作と呼ぶに相応しい。人口学のトピックをバランスよく配置し、全体像を分かりやすく紹介しながら、しかも多くの著名な人口学者のエピソードを紹介するなど興味深く読める良書である。特に最新の研究成果への目配りが行き届いている点が高く評価される。低出生力・人口減少時代の新しい人口学の入門書として確信を持って推薦できる書である。
著者は、上述の業績以外にも、『世界の人口』(東京大学出版会,2版)など専門書および論文を刊行し、長年にわたって日本の人口学界の発展に大きく貢献してきた。
以上の評価に基づき本書その他に学会特別賞を授与する。

第13回(2012年)受賞者

1.学会賞
<受賞者> 津谷典子(他)
<対象業績> Noriko O. Tsuya, Wang Feng, George Alter, James Z. Lee, et al., “Prudence and Pressure: Reproduction and Human Agency in Europe and Asia, 1700-1900.” (The MIT Press, 2010年2月)
<理由> 本書は、速水融教授が組織したユーラシア人口・家族比較史研究プロジェクトから産み出された成果の一部であり、津谷典子教授をはじめとする内外の歴史人口学、歴史学、経済学、社会学の第一線にある研究者が関与し、長年の準備期間を経てまとめられたものである。特にヨーロッパの3カ国、スウェーデン、ベルギー、イタリアと東アジアの2カ国、日本と清朝中国における計15の地域の2世紀にわたる人口登録資料の個票データを用い、同じ研究枠組み・方法によるデータの整理、そしてイベント・ヒストリー分析を通じての比較研究を行ったのは、あまたの国際プロジェクトの中でも初めての試みである。本書は特にマルサス人口論、人口転換論で想定された人口動態、すなわち人口転換以前の日本や中国では出生率が高く、また西欧社会においても出産に関する計画的コントロールが一般に存在しなかったと想定されていることに対する反論である。経済環境的変化に対応して、計画的出産調整は未熟なものであったにせよ、文化習俗の異なる前近代期の西欧と東アジアにおいても行われていたという状況を、ミクロデータ分析によって示している。総じて、文明文化を異にしたヨーロッパと東アジアの歴史的人口動態の相違と類似に関する実証的な比較研究を行い、いくつかの新しい知見・含意を生み出して、歴史人口学だけでなく、社会科学全般に対して貢献した本書は高く評価され、日本人口学会賞にふさわしい業績と考えられる。
2.優秀論文賞(2編)
<受賞者> 鎌田健司・岩澤美帆
<対象業績> 鎌田健司・岩澤美帆「出生力の地域格差の要因分析:非定常性を考慮した地理的加重回帰法による検証」(『人口学研究』第45号,日本人口学会,2009年11月,pp.1-20)
<理由> これまでも日本の出生率の地域差に着目し回帰分析を用いた研究はいくつかあったが、地域の空間的位置関係を無視しているという問題があった。本論文は「非定常性を考慮した地理的加重回帰法」という新しい方法を導入して、この問題への取り組みに大きな一歩を踏み出したものであり、オリジナル性において高く評価できる。また多くのデータを集め、緻密な分析を施した労作であり、この分野の研究に前進をもたらした。よって優秀論文賞にふさわしい業績と考えられる。
<受賞者> 福田節也
<対象業績> Fukuda, Setsuya, “Leaving the parental home in post-war Japan: demographic changes, stem-family norms and the transition to adulthood.” (Demographic Research, Vol.20, No.30, Max Planck Institute for Demographic Research, 2009年6月, pp. 731-816)
<理由> 本論文は戦後の日本における若年層の離家について、国勢調査、人口動態統計、全国家族調査など種々のマクロ・ミクロデータに基づき社会・経済・人口学的要因からその決定要因を解き明かそうとするものである。マックス・プランク人口研究所のウェッブジャーナルに掲載された研究論文であり、日本経済の発展と就業構造の変化、超少子化・長寿化、世帯規模の縮小などの長期的変動の中で、若者の離家の男女コーホート別変化をライフイベント分析によって示した秀作である。よって優秀論文賞にふさわしい業績と考えられる。
3.普及奨励賞
<受賞者> 人口学研究会
<対象業績> 人口学研究会編『現代人口辞典』(原書房、2010年1月)
<理由> 本書は人口学で用いられる主要な用語(840語)に定義や説明を施しアイウエオ順に配列した辞典であり、約70名の著者により最新の知見に基づいて人口学の広い領域をカバーしている。また別立ての「人名・機関名」項目、充実した索引などにより、初学者から専門家まで利用しやすい構成になっている。少子高齢化・人口減少問題など、人口への関心が高まっている現代にあって、人口学の一般への普及に大いに貢献したといえる。よって普及奨励賞にふさわしい業績と考えられる。
4.学会特別賞
<受賞者> 小川直宏
<対象業績> (下記を含む一連の業績)
Shripad Tuljapurkar, Naohiro Ogawa, Anne H. Gauthier (eds.), “Ageing in Advanced Industrial States (Riding the Age Waves - Volume 3, International Studies in Population).” (Springer, 2010年6月)
<理由> 選考対象期間において刊行された上記の書は、国際人口学会(IUSSP)の研究叢書の一つであり、先進諸国の人口高齢化の人口学的パターン、その影響、政策について論じたものである。国際的な第一人者によって執筆されており、先進諸国共通の高齢化問題に対する取り組みのあり方に大きな示唆を与えた。小川直宏会員は、本書以外にも多くの関連の著作を発表し、長年にわたり人口高齢化に関する経済人口学的研究において指導的役割を果たしている。この一連の業績は学会特別賞にふさわしいものと考えられる。

2012年4月21日

第14回(2014年)受賞者

1.学会賞
<受賞者> 阿藤 誠(他)
<対象業績> 阿藤 誠,西岡八郎,津谷典子,福田亘孝編著(2011)『少子化時代の家族変容 パートナーシップと出生行動』東京大学出版会
<理由> 本書はUNECEの提唱に基づき実施されたパネル調査の分析を中心とした論文集であり、各国との比較を含むため、統一的なテーマの下、多くの知見を与えるものとなっている。今日の少子化の真因は、日本社会における家族変容による人口再生産機能の弱体化と、企業、地域を含む社会的な支援策が未熟であることにあると考えられる中で、その点に的を絞った研究として大いに現代的な意義のあるものである。また、海外、特にヨーロッパの国々との比較を踏まえて、日本の事例を考察するという姿勢は手堅く、総合的に評価できることから日本人口学会賞にふさわしい業績と考えられる。
2.優秀論文賞(2編)
<受賞者> 寺村絵里子
<対象業績> 寺村絵里子(2012)「女性事務職の賃金と就業行動-男女雇用機会均等法施行後の三時点比較-」日本人口学会『人口学研究』第48号, pp.7-22.
<理由> 現代の少子化問題の課題の一つは、女性就業の問題にあることは明らかである。本論文は、この課題に対して日本女性の最大多数の職種である事務職について、分析を深め、労働市場の規制緩和・ITC化の進展の影響を典型的に受け易く、その結果として雇用の非正規化が進展していることを実証的に明らかにした。さらに高学歴化が進んでいるにもかかわらず正規雇用においても待遇は悪化している等、人的資本の蓄積が賃金に反映され難い構造になっていることを実証データに基づいて精緻な計量分析が行われ、女性の就業継続や非正規化の実態を明らかにした意義ある研究論文であると評価できる。よって優秀論文賞にふさわしい業績と考えられる。
<受賞者> 小池司朗
<対象業績> 小池司朗(2011)「地域メッシュ統計の区画変遷に伴う時系列分析の可能性に関する一考察―測地系間・メッシュ階層間の比較から― 」国立社会保障・人口問題研究所『人口問題研究』第67巻 第2号pp.65-83.
<理由> 人口学においてもGIS(地理情報システム)の利用が増えている中で、本論文は地域メッシュというミクロ地域データを活用して、1980~2005年についての首都圏における人口の地域分布変化の人口動態要因を明らかにした優れた研究であるといえる。また、都心からの距離帯別、セクター別(鉄道沿線別)に人口動態の変化を分析していることや、地域メッシュデータでは男女年齢別人口しか得られない中で、社会増加と自然増加の要因を分離する工夫を行っている等、人口学的手法の面からも高く評価できる。よって優秀論文賞にふさわしい業績と考えられる。
3.普及奨励賞
<受賞者> 浜野 潔
<対象業績> 浜野 潔(2011)『歴史人口学で読む江戸日本』吉川弘文館
<理由> 本書は歴史人口学の成果を用いて、江戸時代の人口動向について光を当て、歴史には決して登場しない「普通の人々」の生活を語る中で、出生、死亡、結婚、移動という個人のライフコースを分かり易く説明している。また、本書を通じて信頼できる統計が無い時代の人口指標の推計とその結果の解釈について理解が深められる。歴史人口学の成果を、広い読者層を対象としてまとめた書籍として高く評価できる。よって普及奨励賞にふさわしい業績と考えられる。
4.学会特別賞
<受賞者> 阿藤 誠
<対象業績> (下記を含む一連の業績)
阿藤誠,西岡八郎,津谷典子,福田亘孝編著(2011)『少子化時代の家族変容 パートナーシップと出生行動』東京大学出版会.阿藤 誠(2000)『現代人口学』日本評論社、阿藤誠編著(1996)『先進諸国の人口問題 少子化と家族政策』東京大学出版、阿藤・佐藤共編著(2012)『世界の人口開発問題』原書房、など
<理由> 本書は、現代日本における超低出生率に関する学術研究の成果をまとめた貴重なもので、国際的研究の成果いえる。また、阿藤誠会員は、長年にわたる日本と世界の出生力に関する研究を深め、本書以外にも多くの関連の著作を発表し、日本と世界の少子化ならびに人口問題に関する社会人口学的研究において指導的役割を果たしてきた。これらの研究成果が、日本の家族政策の立案に貢献してきたことは高く評価できる。したがって、この一連の業績は学会特別賞にふさわしいものと考えられる。

第15回(2016年)受賞者

1.学会賞
<受賞者> 澤田 佳世
<対象業績> 澤田 佳世(2014)『戦後沖縄の生殖をめぐるポリティクス―米軍統治下の出生力転換と女たちの交渉』大月書店
<理由> 本書は、本土とは異なった沖縄の「出生転換の道程」とその背景を探った人口社会学的研究である。沖縄の米軍統治という歴史的・政治的特殊環境の中で、女性の家族内および社会的地位と出生転換がどのように進んで行ったのかを女性学の視点から多面的に分析した力作である。人口学的分析を踏まえつつ、多くの文献資料の収集、政策担当者からのヒアリング、個別面接調査などの質的データの分析を行うことによって、沖縄の出生力転換を生き生きと描きだしている。沖縄の高出生率が出生調節の供給面(中絶・避妊)において本土とは異なった歴史を歩んだことで、本土の出生力転換から15年遅れとなっているためであることを明らかにした意義は大きく、日本人口学会賞にふさわしい業績と考えられる。
2.優秀論文賞(2編)
<受賞者> 永瀬 伸子
<対象業績> 永瀬 伸子(2014)「育児短時間の義務化が第1子出産と就業継続、出産意欲に与える影響:法改正を自然実験とした実証分析」『人口学研究』第50号(第37巻第1号), pp.29-53.
<理由> 本論文は、雇用制度(短時間オプションの義務化)の企業規模による導入の時間差を「実験」と捉え、具体的政策による出産意欲、就労意欲の向上に及ぼす効果を計測するというアイデアとその結果に基づく政策提言を強く意識した論文である。自然実験という手法を用いた政策効果の精密な検証は、少子化対策に関して大きな役割を果たすものと評価でき、主題となるテーマも論争的であり、今後の発展が期待される。よって、優秀論文賞にふさわしい業績と考えられる。
<受賞者> 是川 夕
<対象業績> 是川 夕(2013)「日本における外国人女性の出生力 ― 国勢調査個票データによる分析 ―」『人口問題研究』第69巻 第4号,pp.86-102.
<理由> 本論文は、外国人女性の出生力について、移動者の社会経済的属性の差(属性効果)、移動前後の出生力の変化(中断/イベント相関効果)、定住化の影響(社会的適応/社会化効果)について国勢調査の個票データを用いて明らかにした論文である。人口減少社会において予想される移民増大の影響を考察するための基礎的なエビデンスを提供する意義に加えて、国勢調査の個票データの利用に先鞭をつけた研究として評価できる。よって、優秀論文賞にふさわしい業績と考えられる。
3.普及奨励賞
<受賞者> 松田 茂樹
<対象業績> 松田 茂樹(2013)『少子化論―なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか』勁草書房
<理由> 本書は、少子化の要因と対策について幅広い観点から考える諸視点を、専門家以外にも分かりやすく論じた著作である。家族の変化、若年層の雇用環境の変化、父親の育児参加、企業の両立支援など話題は多岐にわたり、都市と地方で状況の違いに応じた対策の必要性を指摘している点や国際比較を基にした包括的な議論が評価できる。また、「少子化克服への道」として掲げられる政策提言は、一部論争的なものも含まれるが学術的知見に基づき説得力のあるものとなっており、少子社会の理解を促進するための著作として評価できる。よって、普及奨励賞にふさわしい業績と考えられる。
4.学会特別賞
該当なし

第16回(2018年)受賞者

1.学会賞
該当なし
2.優秀論文賞
<受賞者> 桃田 朗
<対象業績> 桃田 朗(2016)”Intensive and Extensive Margins of Fertility, Capital Accumulation, and Economic Welfare,”Journal of Public Economics, Vol. 133, pp.90-110.
<理由>マクロ経済学のモデルにおいては「子ども」はOverlapping Generations(OLG)モデルの中で扱われ、子ども数が減ることは、一人当たり資本蓄積を増やし経済厚生を改善させるとされることが多かった。これに対して本論文は、一国の少子化には、Intensive margin(母親が持つ子ども数が減少する)とextensive margin(子どもを持たない人が増える)との側面があることに注目し、新たに後者をモデル化する。すなわち子供を持たない世帯が増加すると何が起きるのかを分析した論文として優れている。子どもを持たない人が外生的確率的なショックで増えるとすれば、具体的には、「遺産動機」がないことにより、資本蓄積を減らす影響がある。これは人口の減少による1人あたりの資源の増加による資本蓄積促進効果を上回る可能性があるという指摘が独創的で興味深い。この場合、子どもを持たない世帯の方が子どもを持つ世帯に比べると子どものために自分のための消費を減らす必要がなく、消費の限界効用に差がでる。このことからたとえば子ども手当が経済厚生を改善すると示すこともできる。実際に日本は一家庭が持つ子ども数が減っているというよりは、一家庭が持つ子ども数がさほど変わらないまま、子どもを持たない世帯が増加している国であり示唆深い。このモデルは、子供を持つかどうかという個人の選択を扱ったものではないが、マクロ経済への影響を明らかにすることで今後の研究の方向性を提示するものであり、さらなる研究の発展につながる重要な研究と評価することができる。以上の評価に基づいて審議した結果、優秀論文賞に本論文を推薦するに至った。
3.普及奨励賞
<受賞者> 筒井 淳也
<対象業績> 筒井 淳也(2015)『仕事と家族-日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』中央公論新社(中公新書).
<理由> 本書は新書として図を多用しながら書かれていて比較的読みやすいが、人口研究者や労働研究者の通念にとらわれないような社会学的な視点や学術的分析も含まれている。実際、各種マクロデータから作成した図だけでなく、ISSPやJGSSといった社会調査のミクロデータを自ら集計して作成した図表も交えて国際比較や階層間比較に基づく少子化・女性就業の分析をした上で少子化対策・労働政策の分析・検討まで行っており、説得力のあるものとなっている。特に、前半では各種の未婚化の要因を整理するところから始めて仮説を設定し、日本の未婚化・少子化の要因を集計データの国際比較の視点から分析した上で、日本で有効な少子化対策まで提案しているし、後半でも未婚化・結婚との関連で女性の就業や格差について論じており、人口に興味をもつ一般読者にとって示唆に富むものとなっており、普及奨励賞にふさわしい著作と考えられる。
4.学会特別賞
<受賞者> 大塚 柳太郎
<対象業績>大塚 柳太郎(2015)『ヒトはこうして増えてきた-20万年の人口変遷史』新潮社(新潮選書).
<理由> 大塚柳太郎氏による著書『ヒトはこうして増えてきた』(新潮選書)は、ホモサピエンスが誕生してから現在までの20万年において、ホモサピエンスの生存戦略および環境の変化に応じて、人口指標がどのように変化してきたかを論じたものである。20万年の歴史において人口指標がダイナミックに変動してきたこと、そして現代の日本が直面する人口状況に至るまでにはホモサピエンスの経験してきた歴史の積み重ねがあることなど、本書で大塚柳太郎氏が意図したのは、現在の人口問題をより広い射程から捉えなおす試みともいえる。本書は、大塚柳太郎氏の人口研究の集大成を一般の読者向けに紹介するものであり、人口学のおもしろさを広く社会につたえる書籍として、学会特別賞を授与するにふさわしいと考える

第17回(2020年)受賞者

1.学会賞
該当なし
2.優秀論文賞
<受賞者> 小西 祥子
<対象業績> Konishi, Shoko, Soyoko Sakata, Mari S. Oba, and Kathleen A. O'Connor.(2018) “Age and time to pregnancy for the first child among couples in Japan.” The Journal of Population Studies(人口学研究), Vol.54, pp.1-18.
<理由>本論文は、日本の夫婦(カップル)について、第1子を授かるまでの受胎待ち時間(time to pregnancy, TTP)を計測し、年齢別の受胎確率を推定することによって、夫婦の出産可能性の年齢パターンを明らかにしたものである。これまでわが国では、夫婦の妊孕力に関する科学的調査・分析がほとんど見られないなかで、本研究の実施は価値が高く、その研究成果は画期的なものであるといえる。TTPに関する推計結果のうち、とりわけ27歳以上の女性の受胎確率が20歳代半ばの基準値と比較して予想外の低さであること、また、年齢とともに低下するペースが未産の女性で速いことなどを見出しており、こうした発見事実は現下の少子化問題に対しても重要な含意をもつものである。また従来の推計結果との比較可能性の問題についても慎重に検討がなされている点など、全体に科学的な姿勢が貫かれている。以上の評価により、本論文を優秀論文賞とする。
3.普及奨励賞(2編)
<受賞者> 森田 朗/国立社会保障・人口問題研究所
<対象業績> 森田 朗 監修/国立社会保障・人口問題研究所(編)『日本の人口動向とこれからの社会―人口潮流が変える日本と世界』東京大学出版会.
<理由> 本書は、長年にわたり日本の人口動向を調査研究してきた国立社会保障・人口問題研究所による研究成果普及のための研究叢書であり、同所の各分野の専門家が日本と世界の人口動向やその課題について平易に解説した書である。わが国では人口減少・高齢化が進展し様々な課題が顕在化し、人口変動が国や各地域の存立を左右するとの認識が広がるなか、本書は一般読者に向け、人口動向に関する平易で、しかし専門的知見に裏打ちされた正確な情報と知識を提供している。その内容は、現下における日本と世界の人口動向について体系的にカバーしながら、各分野について正確で豊富な知識、情報、統計データを提供しており、現在において人口問題を考える上で最も信頼のおけるガイドブックとなっている。本書は、知識普及に適した読みやすさと専門性を併せ持つ点が特色であり、一般読者や学生のほか、他分野の研究者、政策形成に携わる行政職、シンクタンク研究者,ジャーナリスト等にとっても信頼性の高いリファレンス・ブックとなっていることも評価できる。以上の点を総合的に評価し、本書を普及奨励賞とする。
<受賞者> 丸山 洋平
<対象業績> 丸山 洋平(著)『戦後日本の人口移動と家族変動』文眞堂.
<理由> 本書では、わが国戦後の人口移動転換を人口学的要因によって説明する潜在的他出者仮説が近年のコーホートに適合しないことを見出し、直系家族制規範の弱まりという家族の在り方が次第に変化してきたことを明らかにした。さらには、近年に東京圏へ移動した女性の晩婚化傾向が東京圏出身の女性よりも強いことが少子化促進の効果をもつことなど、人口移動と家族形成行動との間に明確な相互関連性が存在することを示した。これにより、経済社会要因にのみ規定されているとみられる現象にも人口学的メカニズムが介在するということを一般読者にもわかり易い方法で啓蒙することに貢献している。また、そうした関連性を可能な限りマクロ統計を活用することによって平易に解明しようとした点も評価される。人々の人口移動や家族形成に関する知見が最も必要な自治体などの地域人口分析の現場においては、必ずしもミクロデータやミクロ統計に精通する専門家がいるとは限らず、こうしたマクロ統計の活用方法の提示は有用である。このような点も含め、本書は人口学研究に対し優れた貢献が認められ、人口学、地理学はもとより家族社会学など隣接学問分野の研究者や、学生や初学者にとっても大いに有用であると評価できる。以上により、本書を普及奨励賞とする。
4.学会特別賞
<受賞者> 石川 義孝
<対象業績> 石川 義孝(著)『流入外国人と日本―人口減少への処方箋―』海青社.
<理由> 石川義孝氏による本書は、現代日本における国際結婚や景気変動に伴う国内外との人口移動を論じ、さらに人口減少にまつわる諸問題への解決方法のひとつとして、流入外国人の地方圏への誘導政策の可能性を検討し、人口地理学の視点から政策提言を行うものである。氏はこれまで日本の国内人口移動ならびに国際人口移動について、そのパターンと規定要因の分析、モデリングなどに関する多くの著書、論文を通じて人口学の研究ならびに社会政策の形成に不断の貢献をしてきた。本書においても、国際結婚と地域の性比不均衡や仲介業者との関係、景気変動の人口移動への影響、外国人の国内分布傾向、諸外国の事例などに関する学術的分析を行ったうえで、人口減少局面に入り深刻化するわが国の地方圏の課題について、流入外国人の政策的誘導など、人口移動に関する知見を応用した対処の可能性を提示しており、学術的課題と社会的要請の双方に真摯に取り組む氏の姿勢が顕れている。したがって本書は、石川義孝氏の多くの人口移動研究によって示されてきた人口研究の一つの在るべき姿を体現するものであり、氏の長年にわたる業績と貢献に対する敬意の対象として、本書を学会特別賞とする。

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First drafted August 30, 2000
Last revised on July 6, 2022