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日本人口学会賞

本学会では1988年に日本人口学会賞授与規程を制定し、人口学分野における、会員の優れた業績に対して2年ごとに種々の賞を授与してきました。当初は学会賞と学会奨励賞の2つのみでしたが、1996年に学会特別賞を新設し、2002年より学会奨励賞を優秀論文賞と普及奨励賞に二分したことにより、現在は以下のとおり4つの賞を設けるに至っています。

日本人口学会第18回学会賞各部門の受賞者・受賞業績は以下の通りです。選考対象となったのは2019-20年の2年間における会員の業績です。

第18回(2022年)受賞者

1.学会賞
<受賞者> ⻄岡八郎・江崎雄治・小池司朗・山内昌和
<対象業績> ⻄岡八郎・江崎雄治・小池司朗・山内昌和(編)『地域社会の将来人口: 地域人口推計の基礎から応用まで』東京大学出版会.
<理由>本書は、国立社会保障・人口問題研究所の『日本の地域別将来人口推計』を立ち上げて地道に改善を重ねてきた研究者らによる地域別将来人口推計の基礎から応用に至るまでを丁寧に論じたものである。日本では人口減少と高齢化が進展し、地方創生などの取り組みの中で地域レベルでの将来人口推計が活用される機会は増えているが、これまでは人口学的な観点での計算法の説明に重きが置かれ、その背後にある様々な人口学的な知見は十分に論じられてこなかった。そうした中で本書は、将来人口推計の意義にはじまり、出生・死亡・人口移動に関する仮定設定の理論、諸外国の地域別将来人口推計の実情に至るまで、多角的かつ丁寧に論じている。このことは人口学などの学術分野はもとより、政策担当者を含む実務家にとっても大変重要な成果であると考えられる。以上の評価により、本書を日本人口学会賞とする。
2.優秀論文賞(2編)
<受賞者> 打越文弥・⻨山亮太
<対象業績> 打越文弥・⻨山亮太(2020)「日本における性別職域分離の趨勢―1980‒2005 年国勢調査 集計データを用いた要因分解―」『人口学研究』56号, pp.9-23.
<理由>本論文は、1980~2005年に実施された国勢調査データを用いて、性別職域分離の趨勢を分析したものである。これまでわが国では、労働市場におけるジェンダー関係の不平等性が認識され、性別職域分離に関する研究の重要性は理解されてきたものの、十分な知見が得られていなかった。そのような中で、本研究の実施は価値が高く、丁寧なレビューを踏まえた論点の明確化と堅実な方法を通じて、性別職域分布に及ぼす職業分布効果と性別構成効果の影響とその変化などを解明するものとなった。本論文の成果は、人口学分野のみならず、関連諸分野、さらには労働市場政策をはじめ政策サイドへの貢献も期待される。以上の評価により、本論文を優秀論文賞とする。
<受賞者> 守泉理恵
<対象業績> 守泉理恵(2019)「日本における無子に関する研究」『人口問題研究』75巻1号,pp.26-54.
<理由>本論文は、出生動向基本調査の個票データと国勢調査やOECD Family Databaseから得られる集計データを組み合わせることで、わが国の無子割合の長期的動向と無子女性の属性や特徴とを実証的に分析したものである。無子は、高齢化と人口減少が進むこれからの社会を考える上で重要な研究テーマの1つでありながら、関連する研究は少なく、断片的な知見が多かった。そのような中で、本研究の実施は価値が高く、国内外の既存研究を丁寧に渉猟し、日本の無子について高い精度の分析を実施したことで、現時点で日本の無子に関するもっとも豊かな知見を提示するものとなっている。さらに、分析結果から導かれるインプリケーションは少子化が続くわが国にとって重要な政策的かつ社会経済的意味をもっている。以上の評価により、本論文を優秀論文賞とする。
3.普及奨励賞
<受賞者> 安元稔
<対象業績> 安元稔『イギリス歴史人口学研究—社会統計にあらわれた生と死』名古屋大学出版会.
<理由> 本書は、わが国では数少ない西欧歴史人口学者である安元稔氏によってまとめられたイギリスの歴史人口学に関する成果である。全体を通して詳細な一次資料に基づいた議論が展開されており、人口分析の基礎となる人口静態と人口動態に関する統計制度成立の過程に始まり、人口学の主たる関心事項である出生・死亡・人口移動を経て、家族、さらには都市と農村に至るまで幅広い問題領域を、産業革命以前から産業化の時代を対象に検討している。著者自身の一次史料に依拠した詳細なリサーチの結果を反映すると同時に、イギリス歴史人口学の俯瞰的かつ研究史的な整理を含む貴重な成果が数多く含まれている。このように、同書はイギリスに代表される西洋の歴史人口学研究の真価を知る貴重な機会を与えてくれるものとなっており、人口学者のみならず幅広い学術研究者、専門分野に関心をもつ読者にとって極めて有用なものといえる。以上の評価により、本書を普及奨励賞とする。
4.学会特別賞(2編)
<受賞者> 原俊彦
<対象業績> Hara, T. An Essay on the Principle of Sustainable Population. Springer.
<理由> 本書は、人口学的なメカニズムと人口転換論を織り込んだ人口推計モデルを活用し、日本人口を含む人類の持続可能性について長期的な視点で考察することを試みたものである。本書の著者である原俊彦氏は、ドイツの人口研究をはじめ、人口転換、出生や結婚と人口移動との関係、人口高齢化などの研究を進めてこられた。また、研究活動と社会活動の架橋にも熱心であり、人口減少社会のあり様について積極的に提言し、人口減少と高齢化に直面する地域社会の課題に実践的に関わってこられた。本書にもそうした氏の姿勢が反映され、人口減少が避けられない今後の社会に対する独自の視点からの主張が明快に示されている。また本書を含むSpringer Briefs in population studies (Population studies in Japan)を創設し、国内外に日本の人口学研究の成果を発信するなど、日本の人口学ひいては本学会の発展に大きな貢献をしてきた。したがって本書を学会特別賞とする。
<受賞者> 津谷典子
<対象業績> 津谷典子・菅桂太・四方理人・吉田千鶴(編)『人口変動と家族の実証分析』慶應義塾大学出版会. のほか、下記を含む一連の業績
Tsuya, N., Choe, M. K., and Wang, F. Convergence to Very Low Fertility in East Asia: Process, Causes and Implications. Springer. 津谷典子・阿藤誠・西岡八郎・福田亘孝(編)『少子高齢化時代の女性と家族—パネルデータから分かる日本のジェンダーと親子関係の変容』慶應義塾大学出版会. 津谷典子・樋口美雄(編)『人口減少と日本経済—労働・年金・医療制度のゆくえ』日本経済新聞出版社.
<理由> 本書は、日本を含む東アジアの低出生力社会における人口変動と家族について、実証データを用いながら多角的かつ多面的な観点で検討した成果である。本書の編者の一人である津谷典子氏は、出生と結婚、人口変動と家族、日本と諸外国の人口変動、歴史人口などの分野で、一方では隣接領域の経済学者、他方では歴史学者との共同研究をも含め、多彩なかたちでわが国の人口学研究をリードしてこられた。その貢献は、学術研究の成果として発表された多数の著書や論文に限らず、後進の育成や社会的な活動などの多方面に及び、日本の人口学ひいては本学会の発展に大きな貢献をしてきた。したがって本書を含む一連の業績を学会特別賞とする。

過去の受賞者および対象業績


  学会賞 優秀論文賞(第8回より) 普及奨励賞(第8回より) 学会特別賞(第5回より制定)
*第7回までは「学会奨励賞」を示す
第1回(1988年) 小林和正『東南アジアの人口』 稲葉寿「多次元安定人口論の数学的基礎Ⅰ」、南亮三郎監修『人口論名著選集』
第2回(1990年) 大淵寛『出生力の経済学』 該当なし
第3回(1992年) 該当なし 該当なし
第4回(1994年) 大谷憲司『現代日本出生力分析』 該当なし
第5回(1996年) 山口喜一ほか編『生命表研究』 該当なし 伊藤達也『生活の中の人口学』
第6回(1998年) 岡田實・大淵寛編『人口学の現状とフロンティア』

Osamu, Saito, "Historical Demography," Population Studies

若林敬子『現代中国の人口問題と社会変動』

速水融『歴史人口学の世界』
第7回(2000年) 坪内良博『小人口世界の人口誌』 該当なし 岡崎陽一『日本人口論』ほか
第8回(2002年)

山口三十四『人口成長と経済発展』

加藤久和『人口経済学入門』

金子隆一「人口統計学の展開」『日本統計学会誌』 阿藤誠『現代人口学』 該当なし
第9回(2004年) 稲葉寿『数理人口学』 該当なし 速水融編『歴史人口学と家族史』 小林和正・南條善治・吉永一彦『日本の世代生命表:1891~2000年期間生命表に基づく』
第10回(2006年) 該当なし 鈴木允「明治・大正期の東海三県における市郡別人口動態と都市化:戸口調査人口統計の視点から」『人文地理』 早瀬保子『アジアの人口:グローバル化の波の中で』 該当なし
第11回(2008年) 該当なし 小林淑恵「結婚・就業に関する意識と家族形成-循環モデルによる検証-」『人口学研究』 和田光平『Excelで学ぶ人口統計学』 大友篤『続 人口で見る世界-人口変動とその要因』
第12回(2010年) 平井晶子『日本の家族とライフコース ―「家」生成の歴史社会学―』 林玲子「Long-Term World Population History: A Reconstruction from the Urban Evidence」『人口学研究』 鬼頭宏『図説 人口で見る日本史 縄文時代から近未来社会まで』 河野稠果『人口学への招待-少子・高齢化はどこまで解明されたか』その他
第13回(2012年) 津谷典子, Wang Feng, George Alter, James Z. Lee(他)『Prudence and Pressure: Reproduction and Human Agency in Europe and Asia, 1700-1900』 (2編)
鎌田健司・岩澤美帆「出生力の地域格差の要因分析:非定常性を考慮した地理的加重回帰法による検証」『人口学研究』
福田節也 "Leaving the Parental Home in Post-war Japan: Demographic Changes, Stem-family Norms and the Transition to Adulthood," Demographic Research (Max Planck Institute for Demographic Research)
人口学研究会(編)『現代人口辞典』 小川直宏(下記を含む一連の業績)
Shripad Tuljapurkar, Naohiro Ogawa, Anne H. Gauthier (eds.), “Ageing in Advanced Industrial States” (Riding the Age Waves ? Volume 3)
第14回(2014年) 阿藤 誠,西岡八郎,津谷典子(他)『少子化時代の家族変容 パートナーシップと出生行動』 (2編)
寺村絵里子「女性事務職の賃金と就業行動-男女雇用機会均等法施行後の三時点比較-」『人口学研究』
小池司朗「地域メッシュ統計の区画変遷に伴う時系列分析の可能性に関する一考察―測地系間・メッシュ階層間の比較から― 」『人口問題研究』
浜野潔『歴史人口学で読む江戸日本』 阿藤誠(下記を含む一連の業績)
阿藤誠ほか『少子化時代の家族変容 パートナーシップと出生行動』、『現代人口学』、『先進諸国の人口問題 少子化と家族政策』など
第15回(2016年) 澤田 佳世『戦後沖縄の生殖をめぐるポリティクス―米軍統治下の出生力転換と女たちの交渉』 (2編)
永瀬 伸子「育児短時間の義務化が第1子出産と就業継続、出産意欲に与える影響:法改正を自然実験とした実証分析」『人口学研究』
是川 夕「日本における外国人女性の出生力 ― 国勢調査個票データによる分析 ―」『人口問題研究』
松田 茂樹『少子化論―なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか』 該当なし
第16回(2018年) 該当なし 桃田朗”Intensive and Extensive Margins of Fertility,Capital Accumulation,and Economic Welfare,”Journal of Public Economics 筒井淳也『仕事と家族-日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』 大塚柳太郎『ヒトはこうして増えてきた-20万年の人口変遷史』
第17回(2020年) 該当なし 小西 祥子, Soyoko SAKATA, Mari S. OBA, Kathleen A. O'CONNOR ”Age and Time to Pregnancy for the First Child among Couples in Japan,”The Journal of Population Studies (2編)
森田 朗/国立社会保障・人口問題研究所『日本の人口動向とこれからの社会-人口潮流が変える日本と世界』
丸山 洋平『戦後日本の人口移動と家族変動』
石川 義孝『流入外国人と日本―人口減少への処方箋―』

選考理由アーカイヴ(第10回以降)

過去の選考理由


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First drafted August 30, 2000
Last revised on July 6, 2022