本学会では1988年に日本人口学会賞授与規程を制定し、人口学分野における、会員の優れた業績に対して2年ごとに種々の賞を授与してきました。当初は学会賞と学会奨励賞の2つのみでしたが、1996年に学会特別賞を新設し、2002年より学会奨励賞を優秀論文賞と普及奨励賞に二分したことにより、現在は以下のとおり4つの賞を設けるに至っています。
日本人口学会第17回学会賞各部門の受賞者・受賞業績は以下の通りです。選考対象となったのは2017-18年の2年間における会員の業績です。
- 1.学会賞
- 該当なし
- 2.優秀論文賞
- <受賞者> 小西 祥子
- <対象業績> Konishi, Shoko, Soyoko Sakata, Mari S. Oba, and Kathleen A. O'Connor.(2018) “Age and time to pregnancy for the first child among couples in Japan.” The Journal of Population Studies(人口学研究), Vol.54, pp.1-18.
- <理由>本論文は、日本の夫婦(カップル)について、第1子を授かるまでの受胎待ち時間(time to pregnancy, TTP)を計測し、年齢別の受胎確率を推定することによって、夫婦の出産可能性の年齢パターンを明らかにしたものである。これまでわが国では、夫婦の妊孕力に関する科学的調査・分析がほとんど見られないなかで、本研究の実施は価値が高く、その研究成果は画期的なものであるといえる。TTPに関する推計結果のうち、とりわけ27歳以上の女性の受胎確率が20歳代半ばの基準値と比較して予想外の低さであること、また、年齢とともに低下するペースが未産の女性で速いことなどを見出しており、こうした発見事実は現下の少子化問題に対しても重要な含意をもつものである。また従来の推計結果との比較可能性の問題についても慎重に検討がなされている点など、全体に科学的な姿勢が貫かれている。以上の評価により、本論文を優秀論文賞とする。
- 3.普及奨励賞(2編)
- <受賞者> 森田 朗/国立社会保障・人口問題研究所
- <対象業績> 森田 朗 監修/国立社会保障・人口問題研究所(編)『日本の人口動向とこれからの社会―人口潮流が変える日本と世界』東京大学出版会.
- <理由> 本書は、長年にわたり日本の人口動向を調査研究してきた国立社会保障・人口問題研究所による研究成果普及のための研究叢書であり、同所の各分野の専門家が日本と世界の人口動向やその課題について平易に解説した書である。わが国では人口減少・高齢化が進展し様々な課題が顕在化し、人口変動が国や各地域の存立を左右するとの認識が広がるなか、本書は一般読者に向け、人口動向に関する平易で、しかし専門的知見に裏打ちされた正確な情報と知識を提供している。その内容は、現下における日本と世界の人口動向について体系的にカバーしながら、各分野について正確で豊富な知識、情報、統計データを提供しており、現在において人口問題を考える上で最も信頼のおけるガイドブックとなっている。本書は、知識普及に適した読みやすさと専門性を併せ持つ点が特色であり、一般読者や学生のほか、他分野の研究者、政策形成に携わる行政職、シンクタンク研究者,ジャーナリスト等にとっても信頼性の高いリファレンス・ブックとなっていることも評価できる。以上の点を総合的に評価し、本書を普及奨励賞とする。
- <受賞者> 丸山 洋平
- <対象業績> 丸山 洋平(著)『戦後日本の人口移動と家族変動』文眞堂.
- <理由> 本書では、わが国戦後の人口移動転換を人口学的要因によって説明する潜在的他出者仮説が近年のコーホートに適合しないことを見出し、直系家族制規範の弱まりという家族の在り方が次第に変化してきたことを明らかにした。さらには、近年に東京圏へ移動した女性の晩婚化傾向が東京圏出身の女性よりも強いことが少子化促進の効果をもつことなど、人口移動と家族形成行動との間に明確な相互関連性が存在することを示した。これにより、経済社会要因にのみ規定されているとみられる現象にも人口学的メカニズムが介在するということを一般読者にもわかり易い方法で啓蒙することに貢献している。また、そうした関連性を可能な限りマクロ統計を活用することによって平易に解明しようとした点も評価される。人々の人口移動や家族形成に関する知見が最も必要な自治体などの地域人口分析の現場においては、必ずしもミクロデータやミクロ統計に精通する専門家がいるとは限らず、こうしたマクロ統計の活用方法の提示は有用である。このような点も含め、本書は人口学研究に対し優れた貢献が認められ、人口学、地理学はもとより家族社会学など隣接学問分野の研究者や、学生や初学者にとっても大いに有用であると評価できる。以上により、本書を普及奨励賞とする。
- 4.学会特別賞
- <受賞者> 石川 義孝
- <対象業績> 石川 義孝(著)『流入外国人と日本―人口減少への処方箋―』海青社.
- <理由> 石川義孝氏による本書は、現代日本における国際結婚や景気変動に伴う国内外との人口移動を論じ、さらに人口減少にまつわる諸問題への解決方法のひとつとして、流入外国人の地方圏への誘導政策の可能性を検討し、人口地理学の視点から政策提言を行うものである。氏はこれまで日本の国内人口移動ならびに国際人口移動について、そのパターンと規定要因の分析、モデリングなどに関する多くの著書、論文を通じて人口学の研究ならびに社会政策の形成に不断の貢献をしてきた。本書においても、国際結婚と地域の性比不均衡や仲介業者との関係、景気変動の人口移動への影響、外国人の国内分布傾向、諸外国の事例などに関する学術的分析を行ったうえで、人口減少局面に入り深刻化するわが国の地方圏の課題について、流入外国人の政策的誘導など、人口移動に関する知見を応用した対処の可能性を提示しており、学術的課題と社会的要請の双方に真摯に取り組む氏の姿勢が顕れている。したがって本書は、石川義孝氏の多くの人口移動研究によって示されてきた人口研究の一つの在るべき姿を体現するものであり、氏の長年にわたる業績と貢献に対する敬意の対象として、本書を学会特別賞とする。
学会賞 | 優秀論文賞(第8回より) | 普及奨励賞(第8回より) | 学会特別賞(第5回より制定) | |
*第7回までは「学会奨励賞」を示す | ||||
第1回(1988年) | 小林和正『東南アジアの人口』 | 稲葉寿「多次元安定人口論の数学的基礎Ⅰ」、南亮三郎監修『人口論名著選集』 | - | |
第2回(1990年) | 大淵寛『出生力の経済学』 | 該当なし | - | |
第3回(1992年) | 該当なし | 該当なし | - | |
第4回(1994年) | 大谷憲司『現代日本出生力分析』 | 該当なし | - | |
第5回(1996年) | 山口喜一ほか編『生命表研究』 | 該当なし | 伊藤達也『生活の中の人口学』 | |
第6回(1998年) | 岡田實・大淵寛編『人口学の現状とフロンティア』 | Osamu, Saito, "Historical Demography," Population Studies 若林敬子『現代中国の人口問題と社会変動』 |
速水融『歴史人口学の世界』 | |
第7回(2000年) | 坪内良博『小人口世界の人口誌』 | 該当なし | 岡崎陽一『日本人口論』ほか | |
第8回(2002年) | 山口三十四『人口成長と経済発展』 加藤久和『人口経済学入門』 |
金子隆一「人口統計学の展開」『日本統計学会誌』 | 阿藤誠『現代人口学』 | 該当なし |
第9回(2004年) | 稲葉寿『数理人口学』 | 該当なし | 速水融編『歴史人口学と家族史』 | 小林和正・南條善治・吉永一彦『日本の世代生命表:1891~2000年期間生命表に基づく』 |
第10回(2006年) | 該当なし | 鈴木允「明治・大正期の東海三県における市郡別人口動態と都市化:戸口調査人口統計の視点から」『人文地理』 | 早瀬保子『アジアの人口:グローバル化の波の中で』 | 該当なし |
第11回(2008年) | 該当なし | 小林淑恵「結婚・就業に関する意識と家族形成-循環モデルによる検証-」『人口学研究』 | 和田光平『Excelで学ぶ人口統計学』 | 大友篤『続 人口で見る世界-人口変動とその要因』 |
第12回(2010年) | 平井晶子『日本の家族とライフコース ―「家」生成の歴史社会学―』 | 林玲子「Long-Term World Population History: A Reconstruction from the Urban Evidence」『人口学研究』 | 鬼頭宏『図説 人口で見る日本史 縄文時代から近未来社会まで』 | 河野稠果『人口学への招待-少子・高齢化はどこまで解明されたか』その他 |
第13回(2012年) | 津谷典子, Wang Feng, George Alter, James Z. Lee(他)『Prudence and Pressure: Reproduction and Human Agency in Europe and Asia, 1700-1900』 | (2編) 鎌田健司・岩澤美帆「出生力の地域格差の要因分析:非定常性を考慮した地理的加重回帰法による検証」『人口学研究』 福田節也 "Leaving the Parental Home in Post-war Japan: Demographic Changes, Stem-family Norms and the Transition to Adulthood," Demographic Research (Max Planck Institute for Demographic Research) |
人口学研究会(編)『現代人口辞典』 | 小川直宏(下記を含む一連の業績) Shripad Tuljapurkar, Naohiro Ogawa, Anne H. Gauthier (eds.), “Ageing in Advanced Industrial States” (Riding the Age Waves ? Volume 3) |
第14回(2014年) | 阿藤 誠,西岡八郎,津谷典子(他)『少子化時代の家族変容 パートナーシップと出生行動』 | (2編) 寺村絵里子「女性事務職の賃金と就業行動-男女雇用機会均等法施行後の三時点比較-」『人口学研究』 小池司朗「地域メッシュ統計の区画変遷に伴う時系列分析の可能性に関する一考察―測地系間・メッシュ階層間の比較から― 」『人口問題研究』 |
浜野潔『歴史人口学で読む江戸日本』 | 阿藤誠(下記を含む一連の業績) 阿藤誠ほか『少子化時代の家族変容 パートナーシップと出生行動』、『現代人口学』、『先進諸国の人口問題 少子化と家族政策』など |
第15回(2016年) | 澤田 佳世『戦後沖縄の生殖をめぐるポリティクス―米軍統治下の出生力転換と女たちの交渉』 | (2編) 永瀬 伸子「育児短時間の義務化が第1子出産と就業継続、出産意欲に与える影響:法改正を自然実験とした実証分析」『人口学研究』 是川 夕「日本における外国人女性の出生力 ― 国勢調査個票データによる分析 ―」『人口問題研究』 |
松田 茂樹『少子化論―なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか』 | 該当なし |
第16回(2018年) | 該当なし | 桃田朗(2016)”Intensive and Extensive Margins of Fertility,Capital Accumulation,and Economic Welfare,”Journal of Public Economics, Vol. 133, pp.90-110. | 筒井淳也(2015)『仕事と家族-日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』中央公論新社(中公新書) | 大塚柳太郎(2015)『ヒトはこうして増えてきた-20万年の人口変遷史』新潮社(新潮選書). |
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First drafted August 30, 2000
Last revised on November 19, 2021